このファイルは「姑獲鳥の夏」のネタバレを含みます





「姑獲鳥の夏」の私的疑問と解
京極夏彦ネットコミュニティ(現在リンク切れ)の掲示板に書いたカキコを少し修正して、以下に転載させていただきます



その1 疑問
 こんにちは はじめまして
 「姑獲鳥の夏」を読んだばかりの京極堂初心者です。よろしくお願いします
今まで文庫の厚さを見て手を出しかねていたのですが、読後、ぞくそくするほど面白かった!!!です。
しかし、わずかに疑問符が残ったので、誰かにこれを解いていただきたく、ファンサイトをまわっているうちにこちらを発見しました。
 京極ファンにとっては馬鹿馬鹿しい質問とも、自分の胡乱さと読み込みの浅さを提示することに相違ないとも思いましたが、すいません。莫迦な疑問だと思いますが、「その疑問はこれこれのサイトで聞いたほうがいい」というご指示でも結構です。

「姑獲鳥の夏」文庫p593 より 「私は、あのとき、この少女を犯したのだ」

私はこの関口君の独白がひっかかる。
もちろん、恋文を持って医院に着いたときの彼は尋常ではなかったし、恋文を受け取ったときの涼子も尋常ではなかった。というより<京子>のわけだから、そこでそういうことがあったと自分にも想像できる。
と、頭では理解しても、心のほうでは二つの抵抗が生じた。
 コレでは関口君、菅野医師と同じになってしまうじゃないか(私の持ってる”犯罪者”コードに関口君がひっかかる)というのと、このときは<涼子>ではなく<京子>だったはずなので、関口君の「犯した」という表現がどうにも気になり、「姑獲鳥」を読了した晩はそれがひっかかって眠れなかった。

私の脳は、関口君を犯罪者というコードからはずすべく、必死で記憶を検索し、翌朝、二つの事例(というのか?)をひっぱりだした。

 一つは、ささやななえこ※のマンガで、現代を舞台に鬼神が動き回るミステリーで(「化粧曼荼羅」ではない題名だった)、主人公の男子高校生が、年上の女性に拉致され、眼を覚ましたとき、身体に残っている感覚から「犯(や)られたっ」(年上の女性に男の主人公が犯された)と、気付く場面がある。
 もう一つは「人間失格(太宰治)」で、主人公(男性)が後日談のような部分で「(たまに老婆に)犯されている」と淡々と語っているところ。

(※児童虐待を描いた「凍りついた瞳」のマンガ化で社会的に著名になったが、それ以前にもオカルトや少女マンガを長く描いてきているいわゆる「花の24年組」のひとり。)

それで関口君ですが、彼、「少女を犯した」のではなくて、「少女に犯された」のではないのか?

この場合「犯した」でも「犯された」でもヤるコトは同じなので、小説の展開に異議を唱えるものではありませんが、アレは関口君が「(自分が)犯した」記憶ではなく「(自分が)犯された」記憶だから、彼は封印してしまったのだとするほうが、その後、寮に引きこもってしまったという態度も、うなずける。もちろん、そう考えた方が「私には」腑に落ちるということですが。

同じような考えの方はいるでしょうか。
京極サイトを少しまわって見たら「女性向けサイト」では関口君は<受け>だったりするので、まるっきり自分の感覚もおかしいとは思えないのですが。

でもやっぱりおかしいかも、いや、私はどこかを無意識に読み落とししているのではないかとも気になるので書いた次第です。長文を読んでくださり、有難うございました。
04/7/17



「 | 青字 」は京ネコの訪問者の方々よりいただいたレスからの引用部分です
その2 解
皆様、レスありがとうございます!!!(T▽T)

一括しての返信で失礼します。ネットがあって、自分の好きなモノに対して、同じ言葉を話す方達の話が伺えてよかったです。関口君同様、私も自分が理解したいようにしか理解することしかできませんが、解けました、有難うございます。
(とにもかくにも私の疑問がそれほど論外な疑問ではなかったのがわかって良かった。〜T▽T〜 最悪、石を投げられたらどうしようと思ってたので。)

|  一つ見落としがあるとしたら、これが関口君一人が語る話であるという点でしょう。
「 『なんでも自分が悪い』と考える関口君」 の言葉でしか説明されていない。そうか!。

| そうですよ。
| 「京子」に犯されたのです。


 ! 私は誰かにこれを言ってもらいたかったんです!!!自分の内側ではそう思っていても、外側に発信する言葉としては躊躇してました。ホントにそう言ってしまってもいいのか、迷ってました。有難うございます。

| この行為があるためにどうしても関口が好きになれないという方は大勢いらっしゃいますから。
そうだったんですか。わかります。私が十代前半で読んでいたら、読者として関口君に「裏切られた」と思ったかもしれない。

| 関口君は和姦です。
そうですそうなんです。どちらかの一方的な性行為ではないと思います。既に十代は遠い日の花火(というCMコピーがあった)の私は関口君を責める気はないです。責める気はないけれど、私の頭では「p547 私の陵辱した少女は涼子だったのだ。」など「犯した」「陵辱した」という関口君の言葉だけでは、まるで一方的な行為のようにとれるから、この言葉だけでは彼が菅野と同じ範疇に入れられても文句は言えないみたいで、納得ができなかった。

 私は前に「関口君の行為を頭では理解しても心では」と書きましたが、整理できないのは頭のほうで、関口君の言葉が、言葉に、ひっかかっていたんです。

 皆さんの言われたように、ここでは「犯した」という言葉は単純に性行為自体を意味する言葉と捉えるのがいいですね。「少女=純潔」で倫理的に犯すべからざる存在だから「犯した」と表現したとも。

一方で私は、他者の視点による関口君弁護の語りが小説の中にあればよかったのにとも思う。
例えば、「関口君は『(自分が)犯された(という屈辱)』と『(自分が)犯した(という罪悪感)』のどちらを取るかと聞かれたら、迷わず後者を選ぶ人間である。いや、後者の思い込みで前者の事実を糊塗してしまう人間である」という感じの語りがほしかった。

| 確かにこの時は配慮が足りなかったと思います。

私にとって足りなかったのはそこらへんの読者に対する配慮(解説)で、もちろんこれは一読者の勝手な言い分で、関口君視点の小説では無理だろうし、言わずもがなのことと言われたらその通りなので、ここで皆さんの受け取り方を知ることが出来てよかったです。(自分の感覚に自信が持てなかったので、カキコするときはちょっと不安でした。)

| 自分を信じて恋文を託してくれた先輩の想い人を、どんな状況であれ犯してしまった事が合わさっているのではないかと。

そうか。そういったものも含めて、関口君は引きこもってしまった。言われてみればなるほどと思うけど、言われなかったら気がつかなかった。

| (関口君が彼女に対して)悪い事をしたと思うことが、どちらかというと失礼なんじゃないかと思うんですよ。相手はOKと思ってることを、否定することになる…。


同感です。私それを知ったときは少なからず戸惑ったものの、関口君を嫌いにはならないですよ。しかし私が10代前半だったら関口君を「許せない」と思わなかったかどうかはわからない。自分が10代前半だったら「(関口君が)犯された」という視点は持たなかったかもしれないし。
 また、どういう説明があったとしても関口君がそういう関係を持ったということ自体をイヤだという方もいるだろうことも理解できます。

これからも発行順に読んでいきたいと思います。また疑問が出てきたら書かせていただきますね。

長文になってしまいましたが、皆様、有難うございました。
04/7/20

京極ネットコミュニティ(現在リンク切れ)は公的な性格の個人サイト。そしてそこにファン同士の情報交換のできる掲示板があるのは非常に有難かったです。なにしろネット以外の場所で京極堂ファンにめぐり合う確率はひくいから。社会人になると、同じ言葉を話す人に出会える場所はなかなかない。しかしまた、ネットには京極堂のファンサイトは数多あり、どれも個人のカラーが強く、私の疑問はどこで聞いたらいいのか迷っていたので、とても助かりました。御礼申し上げます。

一般的に引用については (1)出典を明らかにする(2)もとの文意を曲げない(3)引用部分より本文の方が長い等の条件があると思います。 レスを下さった方々の名前(HN)も引用文と一緒に置いていいのか、控えた方がいいのかかなり迷いましたが、いずれ消えていく掲示板だからレスをつけたのであり、京ネコ以外のこういう場所にHNを置くつもりでカキコしたわけではないと云う方もいらっしゃるかもしれない(考えすぎ?)ので、控えることにしました。

この世界は何だったの(笑)
(いや、わかっていましたともさ。)
2004,09,14   このファイルをネットにアップ

2011/08/09  リンク切れなど修正


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