メモ書き感想文
”理想の恋人”のイメージについて 他
「F式蘭丸」×「マネームーン」

注/「F式蘭丸」 と 「マネームーン」は 絵柄も、作風も、お話も、テーマも全然違う。(女性が作者という点が同じというくらい) 前者は、少女「よき子」が 夫と死別した母親が再婚するという事態を 受け入れるようになるまでの話で、後者は 少女とは言えない「月子」が父親の借金をかえすために金を稼ぐことを生きがいにする話。(すいません。記憶をたよりに書いているので、多少 間違っていると思う。)「マネームーン」のほうは、男の性の商品化という話題をまいて反響を呼び、連載当時、新聞などでも取り上げられた。
「F式蘭丸」 大島弓子 掲載誌「別冊少女コミック」 発行/小学館
「マネームーン」 石坂啓 掲載誌「 ビッグコミックスピリッツ」 発行/小学館
石坂啓は「女が男の性を買う」という話を作りたいと思い、ソープランドにも取材にいったそうだ。が、女性が客として行くソープランド(男が女に奉仕する所)という場所を作中に設定したとして、そこに行きたい女性がいるとは思えない、しかし……と考えついたのが、「レンタルボーイ」という作中のシステムだったという。月子はSEXの出前をする出張ホスト(もちろん美少年)を送り出す会社をつくり、大繁盛するという展開だった。

このレンタルボーイのイメージが 「F式」の主人公の理想とする恋人のイメージと重なっていたのが面白いと思っている。「マネームーン」のなかの1頁−
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”貴女がどこへも出かけられず、一人、部屋で退屈している雨の日
傘をさして、花束と ケーキと ちょっと気の利いた小さなプレゼントを持って
貴女の部屋を訪問してくれる男の子(理想の恋人)”
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という「レンタルボーイ」のイメージの絵を見たときは「 えっこれ F式の恋人像を意識して描いてる?」と思ったが、はたしてどうだったのだろう。偶然の一致なのだろうか。

「F式蘭丸」のなかの1頁−
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眉目秀麗、学問優秀、スポーツ万能の恋人「蘭丸」は
雨の日に、ひとり家の中で 母親のいない時間を持て余すよき子を訪問し
よき子の好きな花束とよき子の好きなケーキと「 よきこの好きなスチーブンソンの詩集、装丁のかわいのが出ていたから買ってきたよ」と言って、顔をほころばせながら、びしょぬれになった頭をタオルでふく
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− 恋人は「私」に会うために、なにも白馬にまたがって来なくても、悪者を倒して私を救い出すのでなくても、雨の中をカサをさして花束とケーキと美しい装丁の詩集を持って会いに来てくれるだけで十分なのだ。 −

ただひとつ、「レンタルボーイ」の男の子と決定的に異なるのは、蘭丸は絶対によき子と性的関係をもたないこと。それでいながら、たとえ死が二人を分かとうとも、永遠にお互いだけを愛しつづける約束をかわした恋人であること。それが「性」に侵入される前の少女の 理想の恋人 蘭丸。

よき子(「良き子」にかけてあるはず)のお母さんは既に結婚している(死んだお父さんを愛しているはず)。しかし、再婚する。 ”…理解できない。したくない。私はそんなふうにならない。いや、私はそんな現実と折り合いをつけて生きていけるのだろうか” そういう漠とした不安が生み出した魔法のクッション、よき子にとってライナスの毛布のようなものが「蘭丸」だったのかな。 (安直すぎるぞ<自分)



エロスとポルノの違い
「ディスコミ」についての項で エロティックだのエロティシズムだのと書いたが、エロスとポルノはどう違うのか。いや、どう違うと私は思っているのか。
 エロスでもポルノでも、「 サンタクロースは信じないくせに エッチビデオのウソは全部信じてしまう」(おかべりかの言葉) お子様には見てほしくないのは同じ。つまり両方とも嘘が交じってるということか。しかし「 嘘でしか語れない真実もある」といったのは誰だったろう。
それでもエロスとポルノは違う。Y・ゴルデルが巷にあふれるオカルトの類を「 哲学ポルノ」と揶揄しているので、やっぱりポルノのほうが低俗という意味を含んでいるのだろうが、エロスは高尚で深遠な真理を含んでいるとでもいうのだろうか。(う〜ん。)
釜爺のセリフではないがやっぱりそこに「 愛だよ 、 愛」 があるかどうかということか。
いや、これも近いけれど違う。「 愛という合意の上でのSEXはエロスで、非合意の場合ならポルノ」ということになる。残念だけど、これは違う。
” I LOVE YOU ”を貴方ならどう訳すだろうか?
「好きです」「愛してます」というところだが、以前私はこれ以上ないというくらい強烈な訳に出会ったことがある。 その訳とは(空白、気になる方はスクロールしてください)
「 死んでもいい 」
そういう意味ではエロティシズムは「エロ致死ズム」と変換できるのではないか。
ちょっと大袈裟かもしれないが 「その瞬間」を得ることができたなら「死んでもいい」という刹那を含む情景が「エロティシズム」で、到底そこまでの代償を払う気にならないのが「ポルノ」ではなかろうか。


「マネームーン」の「月子」は ポルノではなくエロスを一度は手にしたのに、それをおカネに変換したために、失ってしまった。そして失ったことに気づかなかった。だから後悔もなく、「マネームーン」は悲劇にはならなかった。(それとも現代版恋愛悲劇かな)


「マネームーン」は 「沈黙の艦隊」や「 風と木の歌」のように、「こういうテーマのマンガが世の中に出て世間に衝撃を与えたということのほうが重大」(竹宮恵子が風木について、そういうふうに述べていたような)なのであって、物語としての完結の仕方のほうは それほど重要ではなかったという点はその三つのマンガに 共通しているように思える。

(妄言多謝)

2002,5,12

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